
NY展示までの道のり
ここは、アートの聖地ニューヨーク・マンハッタン。
世界中の才能が火花を散らすチェルシー地区、11番街。

2026年1月15日から20日まで、マックス・ギャラリー・ニューヨークで開催された
”Stepping Into a World Ⅵ”。
新しい世界へ踏み出そうとするアーティストたちが集うこのグループ展に、
僕のねんど作品が出展されました。

作品タイトルは、 『その世界がもう終わるなら顔を上げてみようと思ったシロクマ』
(英題:If the World Is Already Ending, I Thought I’d Look Up – Polar Bear)
あの日、日本の志摩スペイン村で夢見た景色。
行き詰まっていた僕の「分身」が、今、世界の中心へと足を踏み入れたのです。
ここまでの道のりを振り返ってみたいと思います。
2025年元旦、スイートルームでの誓い
物語の始まりは、2025年の幕開けでした。
年越しを志摩スペイン村ホテルで過ごしたのですが、予約したはずのスタンダードルームが、ホテルの方の手違いかサービスで、なんとスイートルームになっていたのです。
その豪華な空間で、僕は決意しました。
「仕事で日本中に呼ばれて、『仲野さんに泊まっていただくんだったら、スイートルームでなければ失礼だ!』と言われるくらいのアーティストになろう」と。
しかし、現実は甘くありませんでした。ねんど作家として作品を販売しようと、クリエーターズマーケット等のイベントに出展しましたが、「作品を売っても、出展料すら回収できてないぞ」「さて、どうやって作家として生活していく?」と行き詰まり、一人悩んでいました。
運命を変えた、9月3日の出会い
そんな時、ずっと前から購読していた元放送作家・安達元一さんのメルマガが目に留まりました。アートのイベントをやっているとのこと。「作品を見てくれる」というので、勇気を出してインスタグラムのアカウントを添えてメールを送ってみたのです。
運命の9月3日。安達さんに作品を見ていただき、かけられた言葉が僕の人生を動かしました。
「発想も含めていいですよ。見た目もかわいいし。」
「インスタレーションして、もっと大きな作品にしましょう。そしたら、勝ち目が出てきます。」
「そして、アーティストステイトメント、なぜ私はこれをやっているのか、社会の何を変えるためにやっているのか?を考えていきましょう。」
この嬉しい言葉とアドバイスを受け、僕はニューヨーク出展という大きなチャレンジに踏み出すことを決めました。
ニューヨークへ向けて。初めてのインスタレーション。
そして、できあがった作品がこちら!

子ども向けのねんど講座の際に、子どもたちと一緒に作った「首が長すぎるペンギン」と「シロクマアイスみたいなシロクマ」。この愛らしい生き物たちに、その時の僕の精一杯の気持ちを乗せて、インスタレーションとして昇華させました。僕にとっての、初めてのインスタレーション作品です。
締め切りギリギリに応募を完了。その時に添えた、作品解説と自己紹介がこちらです。
作品解説
北極の氷が温暖化で溶け始めてから、どれだけの時が流れただろう。
とうとう最後の一枚になった氷の上で、シロクマはエサを探していた。
「最近、アザラシも魚も見かけないな…」
そこへ、地球の反対側から、首が長すぎるペンギンがやってきた。
首が長いゆえに、遠くの景色も、知られざる秘密も見てきたペンギンだ。
ペンギンはシロクマに声をかけた。
「たくさんご飯がある場所を知ってるよ。」
そう言って、ペンギンは、はるか遠くにそびえる、ソフトクリームのような高い山を指さした。
「あの山の上に大きな輝く石があるけど、動かしてみない?」
シロクマは「自分には無理だ」と、海を見つめた。
だが、海の中にはもうアザラシも魚もいない。
彼らはとっくに空を飛び始めていた。
ペンギンは静かに続けた。
「あの石、ちょっと触ったら動くかもしれないよ。」
シロクマの耳がピクリと動いた。
ペンギンはシロクマの背中を見つめ、微笑んだ。
「背中のマンゴーの翼と、チェリーのしっぽ。その価値に、気づいてる?」
シロクマは、ふと思い出した。
他のシロクマに「シロクマアイスみたいだ」と言われたことを。
シロクマはつぶやいた。
「僕はただのシロクマじゃない。僕はシロクマアイスシロクマだ。」
「このマンゴーの翼で、新しい世界に飛べるかもしれない。」
「あの石も、ちょっと触ったら動くかもしれない。」
そして、シロクマは、この後、顔を上げた。
このねんど作品は、シロクマの現在の環境と私の心の動きを象徴しています。シロクマは氷の上でアザラシを待ち伏せして捕食しますが、温暖化による氷の減少で狩場を失い、食料を得られない危機に直面しています。同様に、私は今の仕事に未来を見出せず、今年初めから「ねんど作家として活動しよう」と決意して歩み始めました。しかし、その一歩は小さく、思うように広がっていませんでした。
そんな中、ニューヨークでの展示の機会を耳にし、さらには作品を見ていただき、貴重なコメントを寄せていただけたことで、心に火が灯りました。そして「もっと大きな一歩を踏み出したい」という強い思いが芽生えました。
この作品は、シロクマの置かれた環境と私の内なる葛藤を重ね合わせ、形にしました。私と同じように、一歩を踏み出したいのに躊躇している人にとって、この作品が小さな勇気や前進へのきっかけになってほしいと願っています。
アーティストプロフィール
私は、生き物たちの魅力と、人との出会いから生まれる特別な瞬間を、ねんどを通じてユーモアを交えて表現しています。生き物が教えてくれる驚きや感動は、私の創作の原点です。私の作品を見た人が笑ったり、喜んだり、反応してくれること。それが私の創作のエネルギーとなり、次の作品を生み出す力になっています。
【少年時代とねんどの出会い】
1972年、滋賀県生まれ。幼い頃からねんどに夢中になり、図鑑を片手に恐竜を再現しては、その物語を想像していました。生き物に出会うたびに新たな発見と喜びが生まれ、生き物の背景にある物語をねんどで表現することに特別な魅力を感じていました。
【舞台で磨いた即興の力】
1992年、20歳で俳優の道へ。舞台の上で観客と物語を共有する喜びを知り、表現の可能性に心を奪われました。特に即興演劇(インプロ)との出会いは人生の転機に。予測不可能な瞬間に身を委ね、観客との対話から物語を紡ぐスリルに魅了されました。劇団「即興パフォーマンスまねきねこ☆」を立ち上げ、俳優・演出家として活動。舞台上での「今」を捉え、場の空気を形にする力を磨いた経験は、後のねんど創作に深く影響しています。
【子どもたちと分かち合う創造の喜び】
2020年、小中学生向けのねんど講座をスタート。子どもたちと一緒に生き物のことを学び、そのたびに新たな驚きや発見が生まれます。こうした発見が、私にも子どもたちにも、作品作りのインスピレーションとなっています。「上手い・下手」を気にせず自由に想像を広げる楽しさを伝えています。子どもたちが自分の力で世界を創ることができた瞬間の目の輝きに、喜びを感じています。
【ねんど作家としての新たな挑戦】
2021年、YouTubeのライブ配信で視聴者のコメントと即興で対話し、ねんどでその場限りの作品を創り上げるパフォーマンスを開始。これは、ライブペインティングならぬ「ライブネンディング」です。画面越しの言葉と私の感性が重なり、予測不可能な形で作品が生まれる瞬間は、一期一会の特別な体験です。視聴者との対話が新たな視点を生み、世界に一つだけの作品が誕生しています。
2025年、旅先の風景や文化、出会った生き物や人々からインスピレーションを受け、その場でねんどに込める「旅ねんど」を始めました。自然や人との交流、瞬間の感動を形にし、旅の物語を共有しています。
【みんなに笑顔と気づきを届けるために】
ねんどと即興の力で、生き物の魅力と人とのつながりをユーモアを交えて表現し、観る人に笑顔と新たな視点をお届けしたい。子どもたちには想像を自由に広げる喜びを、大人たちには生き物の物語を通じて心を動かし、一歩踏み出すきっかけを。即興の舞台で培った「今この瞬間」を捉える力をねんどに込め、世界に一つだけの物語をこれからも紡ぎ続けます。
安達さんの「アートは作家性が大切」「作品が他者のどんな役に立つかが大切」という教えを守り、作品解説は物語調に。そして僕が俳優であることを活かすため、自己紹介文もストーリー仕立てに作り上げました。
そして、審査結果は?
そして、結果を待ちました。
審査結果を待つ時間は、永遠のように感じられました。
画面の上から順番に名前を追っていきますが、全然名前が出てこない……。
「もう、ないんじゃないか」と諦めかけたその時、名前がありました。
「入選」。
本当は最優秀賞が良かった。
けれど、僕の物語がニューヨークに届いた確かな証でした。

審査コメントもいただきました。
ありがとうございます。

出展の準備。自分自身と向き合う時間。
ニューヨークへの入選が決まり、次なる戦いが始まりました。 まずは、海を越えて作品を届けるための配送。いくつもの業者を調べる中で、親切に相談に乗ってくださった「みかん箱」さんという配送業者にお願いすることに決め、大切な作品を託しました。
そして、ギャラリーで作品の代わりに僕を語ってくれる「ポートフォリオ」の作成です。 安達さんの「ポートフォリオの作り方」の動画を何度も繰り返し見込み、他の方への添削例からも必死に学びを吸収しました。初めて作るポートフォリオ。多少の自信と、それ以上の不安。ドキドキしながら添削に出し、結果を待ちました。
返ってきた言葉は、「一発で大合格!」。 この言葉は、何物にも代えがたい喜びでした。
孤独な創作から、つながりの創作へ。
ポートフォリオを作りながら、僕は「アーティストステイトメント」について深く、深く考えました。「ただ楽しくて、おもしろいから作っているだけで、僕の作品は本当に誰かのためになっているのだろうか?」と。
ふと、自分の創作の現場を思い返しました。 子どもの頃は、いつも一人きりでねんどに向き合っていました。けれど今は、子どもたちの賑やかな声が響く講座の真ん中に僕がいます。 最初は「こんなにうるさい中で作れるわけがない」と思っていました。でも、僕が作る姿を子どもたちに見せ、共に作ることで、彼らが刺激を受け、ユニークな作品を作っていくという事実を知りました。
何よりの発見は、僕自身が彼らの何気ない会話からヒントをもらい、それを形にすると子どもたちが全力で喜んでくれる……その連鎖の中にいたことです。
「僕は、一人きりで作っているんじゃない。」
誰かとの関わりの中で生まれる気づき、感動、喜び、そして疑問。それらすべての感情を受け取り、形にすること。それこそが僕の作風であり、唯一無二の個性なのだと気づかされました。ニューヨークへの挑戦は、僕に「アーティストとしての真の魂」を見つけさせてくれた、かけがえのない機会となったのです。
海外の方にもこの想いが届くようにと、作品の物語を英語でも綴りました。準備は、すべて整いました。
ニューヨークに刻まれた名前、そして「$470」の輝き
そして、めでたく展示されました。

この作品は、「$469.0」で販売される予定でした。
なぜ、$469.0 かというと、「469.0」=「シロクマ」だからです。
しかし…

値段が「$470」になっている!
小数点表示が難しかったというニューヨークらしいハプニングでしたが、
その切り上げられた1ドルに、どこか未来への希望を感じました。

顔を上げた、その先に
2025年の正月に描いた「日本中から依頼が来てスイートルームに泊まってと言われる作家」にはまだなれていません。けれど、日本を飛び越えて、ニューヨークで展示をすることはできました。
僕の作ったシロクマのように、今、うつむいている方がいたら伝えたい。
ちょっと、顔を上げてみてください。
自分の目線よりも上を見ると、違う景色が見えてきます。
そして、必ず上に向かって羽ばたいていけるはずです。
がんばっていきましょう!
お読みいただき、ありがとうございました。